タロウのD通信第77号
――――― 二つの大国 ――――
前稿で中国とインドの知的財産権に対する取り組みの違いについて述べたが、経済発展のためにどのように海外の諸国と交流をすすめるかという点で、両国の考え方に大きな違いが見られ、この違いをはっきりとかつ正確に認識することが両国と付き合う上でもっとも重要なことであると思っている。特に日本にとって中国とインドは共に同じアジアの国であり、文化的にも古くから影響を受けており、それだけに最重要なパートナーとしてそれぞれをしっかりと理解する必要があると思う。
中国は文革の余波がまだ残っている78年トウ小平氏が開放改革政策を提唱して以来、今までの社会主義国家間や国連対策の第三世界(東南アジアやアフリカ諸国)との交流のみから積極的に先進国との経済的な交流を始めた。それは同国が政策的に外資導入を進め、その資金供給先として先進国に標準を合わせたからである。ただし当初は今経済的に大発展している沿海部ですら、インフラは整っておらず、中産階級も育っておらず、したがい広東省を中心とした一部の経済特区などでの再輸出による外貨獲得を一つの方策としていた。その後は外国資金の導入が順調にすすみ且つ、経済発展により新たに形成された中産階級は大きな購買力を有するようになりこれは中国を市場として考えていた、先進国の輸出型企業にとっては大きな魅力と映るようになった。その後の沿岸部の経済発展については皆様ご存知の通りであり、また外資に中国市場を開放することにより得られた先進国のノウハウを独自に消化して、現在では世界の工場として積極的に輸出市場に進出し、世界を席巻しており、今後もこの勢いはとどまることを知らないと思う。
一方インドは第2次世界大戦後、民主的に英国からの独立を達成して以来、民主主義を標榜し、貧困から脱出すべき教育を重視して、その基礎体力の強化に努めてきた。しかしながら中国のように共産主義による国家主導の政策は取れずに、経済発展においては長く中国の後塵を拝していたようである。しかしながら継続して進展させてきた基礎学力重視の姿勢はその固有の英語力と合いまみれ、ITを中心とした欧米の企業の下請けという新たな、事業形態を生むこととなる。これが経済発展の鍵となると認識したインド政府は間髪をいれずに、ITや医薬品原料などの知的労働及び労働集約的事業において先進国の下請けとしての事業を受け入れるために、その環境整備に積極的に注力することになる。これが95年の2005年を目処に先進国の知的財産権を完全な受け入れを目指した国家的財産権の保護政策を促したのである。これによりまずはアメリカのIT業界が、人手がかかるダウンストリームのソフトウエアの下請け先にバンガロールを中心とするデカン高原地帯に求め、前後して欧州の企業も進出するようになる。またそれぞれの国家が独自に管理をしておりそれぞれの規準に適合した管理が必要な医薬品およびその原料についても洗練された英語力を有するインド企業は正確にその条件を受け入れる道をとり、現在では多くの医薬品原料が同じくデカン高原にあるハイデラバードなどの工場から世界のマルチナショナル製薬企業に向けて供給されることになったのである。
その結果今日では中国とインドの両国はそれぞれユニークな経済発展を成し遂げており、且つこの両国はすでに先進国にとってなくてはならないパートナーとなっている。ところで実際に仕事をしていて、常に疑問をもっていたことに、有能な従業員の待遇の問題があったそれは、中国では大学卒の優秀な人材を1000ドル(月間)支払えば確保できるが、インドではこれが4000ドル(月間)は最低でも必要だからである。何故このような格差が生まれたのであろうか、ところでブルーカラー労働者(操作工、ワーカー)のコストは共に先進国の10分の1というのが相場であるにも拘わらずである。この疑問に対してはここ数年考え続けてきたが、2005年の知的財産権の受け入れという事実を改めて認識すると容易に理解できる。それは即ち、中国もインドも多くの場面で先進国の下請けとして原料や製品を製造し供給している、しかし製品ついて言えば、先進国が販売する製品にはそれなりにキーとなるノウハウが詰まっており、仮にそれを開示しなくては委託製造できないような場面に遭遇した場合において、欧米各国企業の中国とインドの企業に対する対応はおおきく異なるからである。即ち欧米の企業は中国に対しては常にその知的財産権の保護政策に対して疑念を抱いており、結果としてなるべくノウハウを出さないようにする、結果として中国の原料や比較的単純な製品は競争力が有るが、複雑なものについては未だに競争力が無いといったことになる。一方インドは知的財産権を保護しており、欧米の企業としてはインド人やインド企業に対して十分に信頼を置けることとなり、そのキーとなる技術についても積極的に提供してきたからである。結果として一部の優秀な技術者に対しては欧米企業は好条件を提示することで彼らに対しても知的財産の保護を求めることとなる。一方で中国においては中国人社員がいつこれらを持ち逃げするか不安に思っており、待遇は低くそれだけに一般的な技術ノウハウしか提供しないことになる。
ドイツのフォルクスワーゲン社は上海汽車製造廠との合弁でサンタナを最初の欧中合弁事業としてこの世に送り出したが、実際この車はドイツも含めて先進国市場ではまったく売れない失敗作であり、これならばまねをされても構わないとして提供したのではないかと今でも思っている。またその後の中国の自動車産業の動きを見てもすでに欧米日の車をコピーしたかのような国産車が輸出するほどまでになっており、この分野での中国とインドの取り組みの違いは明白であり、これにより待遇を決める側の欧米企業が両国の知的能力を有する従業員の待遇に差をつけていると考えるべきであると思う。
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