インド人の智恵 vol.86
先週出張でインドに一週間滞在した。いつものことながらインド人と話すと感心することが多い。今回は核の問題であった。本日のWEBニュースで報じられていたが、イランが濃縮ウランの設備を自国の紙幣に描いたという記事を読んだ、イランが発行する5万リアル新紙幣の表にホメイニ師またその裏面にはイランの核開発成功を祝した原子をあらわす図が描かれているとのことである。米国はすでにいろいろな筋を通じてイランの核開発に対しては軍事的制裁も辞さないというコメントを発表している最中である。先行きが非常に心配である。ところでこれと同じことを8年前にもっと過激にすすめながら、堂々とアメリカと渡り合い、今では核保有国として認められている国がある、インドである。
インドは98年に核実験を行い核兵器を保有して以来、すぐに米国が主導して国連が進めているNPT(核不拡散条約)の精神に反するとして、米国による徹底的な反対及び経済制裁を受けた。しかしながら自分を信じて正々堂々と交渉する道を選び、自国の論法の正当性を主張し、米国を屈服させた上で今では民生用の原子力技術の提供まで約束させている。なぜインドは他のパキスタンやリビア、またブラジルなどの南米諸国、北朝鮮、イランとことなり、このようなことができたのであろうか?またどういう背景で、米国に対して正々堂々と議論を挑み、その結果アメリカの議会の賛同を得ることに成功し、核不拡散を世界に押し付けてきた米国の考えを180度変えることに成功し自国の考えを認めさせることができたのであろうか?。先日のNHKの番組でその一部始終を紹介していたが、その理由はよく米国がインドに対しての使う表現である、インドは10億人の人口を有する世界最大の民主主義国であることだけであろうか?この経緯をつぶさに理解することは、ヨーロッパがEUを発足させたことと同じく米国の影響を受けずに独自に自国の安全保障体制を構築するための智恵の存在が明確になる。
インドは68年に米国が主導して国連が策定したNPT(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons=NPT)条約の署名が始まって以来、一貫して米ソ英仏中のみが核の保持が許されていることに対して差別であり不平等であると主張しており、この条約に署名することは拒否してきた。その後再三に渡る米国の圧力にも屈することなく、98年には独自に開発した技術を完成させ核実験を成功させた。これに対して米国は即刻経済制裁を発動したが、その後両国間の協議により今ではその米国をして自国の民生用核技術をインドに供与するまでに態度を転換させている。このことは先のイラク戦争の発端となった議論がイラクの核兵器保有への疑念であることや、今の北朝鮮の問題、イランの問題を考えるとき、本質は同じ問題ながら、米国の全く異なった対応を引き出した点で特筆されても良いと思う。ではどの当たりに鍵が有ったのであろうか?
これは同じく10億人以上の人口を有する、中国との比較の上で考えると面白いことが分かる。中国は共産党独裁ながら、戦勝国の地位をえて、国際政治の舞台では常に優位な立場にいた。また経済的には共産主義が行き詰まりを見せると、見事に市場経済を積極的に取り入れかつ不足する外貨を自国の市場を外資に開放することで獲得し、経済発展を図ってきた、結果としてインドよりも10年以上前から高度経済成長を達成し、インフラも整い沿岸部ですでに先進国並みといっても良いほどの経済発展を成し遂げている。しかしながら現実にはアメリカが主張する著作権の軽視や、社会主義一党独裁制を改めることは全く考えておらず、ことが起これば自国は発展途上国であると言い逃れ、いつも批判を浴びている。その一方で中国にとってアメリカは世界最大の輸出の顧客であり、米国市場なくしては中国の発展はありえないという日本や他の東南アジアの国々と同じような相互依存の関係となっている。中国とアメリカの関係は経済的には相互依存、政治的には台湾問題もあって全くかみ合っていない二律背反の関係といえる。
一方インドは従前より米国が主張する著作権の問題は正面から受け入れ、常に国際法を尊重して国家発展を図ってきた。実際NPTの問題にしてもインドは違反というよりもそもそも加盟していないのでこの点では米国も条約違反のレッテルを貼ることはできない状況であった。しかしながらこれらの表向きの話とは別に米国はインドの主張を受け入れざるを得なかった背景にはインドが徹底して行ってきた、知的教育の重視の政策が功を奏したものと考えるべきであると思う。それは仕事で米国の製薬メーカーの研究者などと話すとよく分かるが各企業にとってもっとも重要な開発の仕事の多くは今では米国の企業といえども自国人は従事しておらず、そこにはインド人の優秀な技術者がその中心として新たな事業の担い手となっているのである、これは製薬のみならず、もっと大きな産業であるITでも同じことであり、米国にある世界の有数企業の頭脳はここ10数年来インド人によって大勢を占められているといっても過言ではない、その中でアメリカ人は会社の経営それもマネーゲームのみに集中しており、いかに有り余る金をうまく使って儲けるかしか考えていないのである。この米国の仕組みの脆弱性を見抜いたインド政府は米国に対して積極的に優秀な人材を送り続けることで、もはや米国はインド人技術者なくては立ち行かない状態となった時点を見透かした上で、核実験を行いNPT体制に対し自国の正当性を認めさせることを意図して自国の安全保障体制を確保に動いたのである。即ち両国の関係はすでに必要不可分の関係となっていたのである。
インドが核実験を行い、米国が今のイランや北朝鮮あるいはかつてのイラクしたいように経済性制裁を課したが、この制裁を受けたときインド政府は米国に大量に移住していたインド人技術者の帰国命令を発動すればアメリカ経済はどうなるかを良く知っていたのではないかと思う。インド人はその間NHKテレビで紹介されたように在米のインド人組織が積極的に動き、得意の英語で米国の議員一人一人を説得して米国にとって最悪なシナリオ回避を説明して回ったということであったが、その際にインドを敵に回せばアメリカが困るという正論を着実に植えつけて言ったのではないかと思う。振り返って日本であるが、今の日本がいなくても米国は全く困らないのではないだろうか、日本と同じ経済発展の仕組みを取り入れた韓国、や中国、また東南アジア諸国など日本の換わりになりうる国はたくさんある、それではアメリカにとって日本と付き合う必然性はなく、今のようにただ無節操にブッシュ政権に媚をうることで表面的に同盟国を言われて入るが、常に米国頼みの弱い立場である。自国の最優先課題である拉致問題ですら米国にすがるしかなく、まことに情けない限りである。
実際に真の対等な関係をもたらすための自立とは片方向の関係だけではありえないのではなかろうか?あなたがいなくては絶対に立ち行かないとか、これを受けなければ自分が困るといったもっと濃密な内容のある付き合いができてこと双方の独立は保障されるのである。今の日本が唯一アメリカから受け入れられていることは、他国との関係を犠牲にしてまでも邦貨を増刷し続けそれでせっせと米ドル国債を買うだけのお金の関係である。そのことに気がついているトヨタをはじめ大企業はいつ日本がつぶれても大丈夫なようにすでに多くの拠点を海外に移している。日本人はこれでもまだアメリカに頼ろうとするのであろうか?国家としてインドを見習うべきではないだろうか?
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