サンパウロ日本人街 vol.88
3月末から4月初めにかけて、仕事でブラジルサンパウロに出張した。以前は中心のビジネス街といわれるパウリスタ地区に宿を取ったが、今回からは日本人街(中国や韓国人も含めて東洋人街ともいう。)のリベルタージェ地区に宿を取った。サンパウロには1500万人の人口があるといわれているが、その約10%に当たる150万人の日系人が居住しているといわれている。気候は緯度的には香港と同じような亜熱帯地域に存在しているが、標高が1000m近くあり、云ってみればインドのデカン高原地域と同じような気候で、我々日本人にとっては快適である。
ブラジルは1500年代にポルトガル人の入植が始まり、ポルトガルの植民地であったが、その後金鉱が発見されたりして、本国には多大な利益をもたらしたようである。またその際の鉱山労働力としてアフリカから大量の奴隷を流入があった点は他の南米諸国と同じである。その後ブラジルが独立したきっかけとなったのは1800年代のナポレオンの全欧州制覇の際の、ナポレオンの制服により独立を失ったポルトガルは一時的にブラジルに避難して国を継続させた。ナポレオンの支配が終了後、ポルトガルは欧州の地に戻ったが、一部がブラジルに残ることで1822年ブラジル帝国が設立し、そして1889年に共和国となった。比較的新しい国である。
この国は欧州に住んでいる私の目から見ると、非常に親しみやすい面白い国として捉えることができる。社会の基本はローマ帝国の直系属州であるポルトガルの仕組みが取り入れられており、欧州の国家と変わりはないが、一方でドイツ人、オランダ人、日本人などの多くの移民を受け入れてきた歴史もあり、この意味ではアメリカと並ぶ移民国であり、多種多様な文化が共存している点が欧州諸国とは異なっている。一方カトリック国であるからか、博愛精神が浸透しており、その結果、積極的に混血がなされ、いまだに白人プロテスタントの純血を重視するアメリカとは大いに異なる点も見逃せない。またリベルタージェ地区では私の子供の頃祖父母が会話していたような懐かしい日本語そのまま通用しており、昔の日本がまるでタイムスリップしたように残っているといった新鮮な驚きがある。
ブラジルは移民国家だけに、それぞれの自前の文化を受け入れることは当たり前のこととされており、日系人も自分の文化を守りながらブラジルのやり方との整合性をつけることをこの100年間努力してきたようである。これらの努力の軌跡は同地区内にあるブラジル日本移民史料館にてつぶさに知ることができる。ちなみに日本からブラジルへの最初の移民はちょうど99年前の1908年とのことにて、来年はこれを記念した式典が開かれるものと思う。
今回は一週間弱の滞在であったが、ブラジルの政治経済のシステムを取り入れながらも、自分の文化を守り、その中で自分はどのようなことで他の国より優れており、国家に対して貢献できることが可能であるかを、真剣に考えた結果、日本方式の農業を規模が大きいブラジルに適合するように改善し、同国の農業の分野の発展に貢献した、日系人の功績は大きなものがあり、これにより、他のブラジル人からも尊敬される日系人社会を作ったこと、これは特筆に価すると思う。
今の日本人はアメリカの言うなりに、拝金主義に走り絶対に捨ててはならない魂をも売ってしまったように見受けられる、しかしながら日本から見てもっとも遠方の地球の正反対には他国にいながらも自らの文化を守り、今後も生き延びる智恵を継承しようと努力しかつ実績を残している同胞がいるのである。この点はしっかりと理解すべきであると思う。
聞くとところによると、世界一大きな日本人街といわれてロサンゼルスのリトル東京はその弱体化が激しいといわれている。また欧州随一といわれているここデュセルドルフの日本人街(インマーマンストラッセ)も外見はともかく、中身の荒廃は大きい。この原因はサンパウロにいまだに残っている、日本人が自らもっている日本人らしさを捨て去ってしまった結果ではないかと感じている。
情報化社会のなか、今日本のテレビがそのままロサンゼルスにいても、デュセルドルフにいてもサンパウロにいても視聴できる時代になった、しかしその文明化がすばらしい固有の文化の保持発展に向うのではなく、その崩壊に向っているとしたら、これは嘆かわしいことである。日本という国は金だけがすべてではなく、金で評価してはいけないものは何かということをしっかりと分別を持って認識していたはずであり、その点を改めて皆が認識しなくては、この国は崩壊してしまうのではないかという危惧を改めて感じた。今こそ、日本人の魂とは何なのかをしっかりと認識しなおす必要があるのではないか?それをしなくては、本当にアメリカに従属する中途半端な属州と成り下がってしまうと思う。一方でこの現象はアメリカ側からと見ると北米大陸横断を成功させ、次は太平洋の向こうを征服しようとする、黒船来航以来のもう一つのアメリカの悲願であった、日本の属国植民地化が着実に進んでいることを意味していると思う。
ところでリベルタージュ地区の日本食堂で食べた食事の味は美味しかった、それは出来合いのファーストフードを暖めただけの最近の日本のレストランにはない本当の日本食の味であった。ここにも文化の真理があるように感じた。我々日本人が今おかれている、かつ進もうとする状況が正しい方向ではないことに今こそ気付くべきである。このまま進むことは誠に嘆かわしく、恐ろしいことであると思う。今の閉塞状況をこのまま継続させることはなんとしても避けなければならない。
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