したたかヨーロッパ外交 Vol.97
昨日ハイリゲンダムG8サミットにおいて開催国であるドイツは懸案であった地球温暖化対策について、何とかアメリカも引き込んでの合意を成立させた。ヨーロッパ側からみると日本が当初の期待以上にアメリカ説得に尽力してくれたことに感謝しているものと思う。これは今後日本の機能がアメリカを説得させるための切り札となるかもしれないといった可能性を示したものとして注目している。その意味では安倍首相はナイスジョブを行ったのではないか?
ところで今回の温暖化問題は80年代後半より環境対策を重視してきた欧州諸国がいまだに新自由主義、新資本主義こだわっているアメリカに対して政治的に勝利したことを意味していると思う。即ち現代の環境問題はかつてのように、無視して何もしなくても自然に立ち直る状況にはなく、あくまでも人間が主導で対応しなくては解決できないところまで大きくなったことをサミットの場で公にしたということである。これはかつてのアメリカが唯一の超大国であった時代から、新たな欧州、ロシアそしてロシアを抜いたBRICS+メキシコ、の新興国が並立する共存時代に入ったことを意味しているのではないか?これによりアメリカが標榜していた新資本主義によるグローバル化は頓挫したと理解してよいと思う。アメリカの凋落の背景には2001年以降進めてきた、対イスラム諸国との無謀とも言える抗争が陰を投げかけているのではないかと思う。古今東西、国が疲弊する最大の原因は戦争であるということがここに来て、またも証明されたのではないか?
ところで欧州はどうして環境問題にここまでこだわったのであろうか?この問いかけに応える時、欧州の経済至上主義(拝金主義)への対応を見ればよく分かる。具体的には85年のプラザ合意以降アメリカは自国通貨が唯一の基軸通貨であることを各国に対して再認識させることに成功し、またその地位を経済大国であった日本や当時の西ドイツに保証させた結果、米国は大きな自信を持ち、ドルによる世界支配体制の構築を本格的に始めたのである。即ち金本位制を取らなくとも唯一の基軸通貨として存在することができる特権をフルに活用して、自国の経済規模をはるかに超越した金額を発行しそれを世界中にばら撒くことで、自国の影響力を行使しようとしたのである。その結果、合理的な形でドルをばら撒くために、アメリカは自国で商品を製造することを抑え、海外から積極的に輸入をすすめ、貿易赤字が限りなく膨らんでも休むことなくドルを供給し続けたのである。また財政赤字がいくら増えようともドルを供給するために戦争を起こし、その軍事的影響力を誇示してきた。しかしながら、時を同じくして起きた、旧社会主義陣営の崩壊後の自由主義への転換、またそれに続く西ドイツの東ドイツとの統一により、これらの国々が新自由主義国陣営入りすることが確実と見られていたが、ところが実際はドイツやフランスなどの欧州先進国自体がアメリカの目論見とは異なり、これらを受け入れるために一部社会主義な方向に変貌したのである。それは、地球人は有限な資源の上に成り立っている運命共同体の一員であり、経済成長を犠牲にしても環境保護をすすめなくては人々の将来に渡って共存はできないといった考え方が背景にあった。その新しい考え方の集大成が欧州連合であり、ユーロという新しい基軸通貨の創生であった。結果としてアメリカが夢見ていたドルによる世界支配は抑制され、欧州でのグローバル化は同じ先進国のドイツ・フランスにより止められたのである。また現在ではドルの影響力は日本と中国を含む東アジア及ぶアセアン地域に限定されている。それではなぜ今回の開催国であるドイツやフランスは温暖化の問題にここまでこだわったのであろうか?これは温暖化即ちグローバル化による弊害、二酸化炭素即ち余剰のドルと考えると説明がつく、ドイツ・フランスは地球の温暖化は正常な状態ではなく、これは無節操に過剰に排出された二酸化炭素に問題であるということをまず、アメリカを含めた新自由主義諸国に認めさせることが、次に続くドルの世界支配の野望を完璧にくじくための先例となると考えているのである。現実に二酸化炭素の元は石油である、アメリカはその石油は無尽蔵にあるいう前提に立って、世界中からかき集めそれを、がぶ飲みするかのように使ってきた、結果として石油を構成する炭素分が酸化した排出物である二酸化炭素が大量に排出され、地球が温暖化したとの指摘である。温暖化は良いことだという論法もあるが欧州ではこれは本来あるべき姿ではないとして一方的に悪いこととされ、人々もそれに同調している。これにより温暖化は自然な状態ではなく悪いことであるといった考え方が確立したのである。一方で同じく無節操なドルの発行についても欧州人は同じ考えを持ちつつある、本来通貨というものは実態の大きさに基づいて節度を持って発行されるべきものであり、それを超越して好き勝手に発行すべきものではない、これでは石油を無制限にがぶ飲みしているアメリカのエネルギー政策と同じく、結果として温暖化と同じく弊害がおこるとしているのである。現実に欧州でもユーロ発行直前まで国境を越えた大規模なM&Aやヘッジファンドの来襲など、欧州人が不正常とする状態が続いていた、先日破綻したダイムラー・クライスラーのM&Aもこの時期に行われたものである。そこで欧州に流入するドルを余剰二酸化炭素と考えて自らがコントロールできる仕組みを考えたのである。これが新基軸通貨ユーロの創出であった。そしてユーロに威厳を持たせるためにユーロを使うことができる国は財政赤字をGDPの3%以内に抑えなくてはならないという統一目標を決め厳格に運用したのである。無制限に財政で赤字を出しても少しも反省せずに対策を講じないアメリカの向こうを張ったのである。またあわせてブリュセルのEU政府の機能を高め、そこに機能を集中させると同時に各国政府のリストラを進めさせ財政赤字低減のお手伝いをさせたのである。結果はどうなったであろうか?当初懐疑的に見られていたユーロであるが今ではドルに対して常に30%以上高い水準で安定しており、ロシアや中国や新興国はユーロを米ドルと対等の基軸通貨として取り扱っている。欧州の取った、アメリカの支配からの自立政策はこのように大きな成果を上げたのである。
アメリカはいまだに欧州連合を認めていない。ブリュセルに大統領がきてもNATOの本部には顔を出すが、隣といってもよい至近距離の欧州連合本部には目もくれない。しかしながら、もはやアメリカは超大国の地位を失い、今後は欧州連合とも協調をせざるをえなくなる。そんなときプライド高きアメリカ政府をうまくリードする役回りを同盟国である日本がとることができれば、世界に対して新しい国家像を示すことができるかもしれない。日本にとって今まさに内患外憂の苦しい時期だが、ここを如何に乗り切るかが鍵である。くしくも来年のサミットは日本で開催される、欧州がアメリカに打った楔を如何にうまく活用するかが日本に求められている。隣の中国やロシア他新興国の目がいっせいに日本に注がれるのである。その意味では今回のサミットにおける日本の動きには一筋の光明を見出した思いである。
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