バブルの反省はなされたのであろうか? 4 Vol.124
原油高に歯止めが掛からない、ここに来て一進一退の様相ではあるが、近いうちにバレル当り100ドルとなるであろう。ところでバレルで表記されるとなんとなくピンと来ないが、一バレルは約160Lであり、リットルに換算すると63セントとなる。これは円に直すと約69円となる。原油の価格がFOBベースですでに69円にてこれに輸送費や精製の費用を加えれば成る程巷間のガソリンが150円を超えることも納得がいく。
それにしても最近の上昇は異常である、BRICSと言われる中国やロシア、インドの需要が今後増えるのに現状の供給量が追いつかないというのが理由のようだが、長期的な事象と短期的な事実を混同しているようで納得がいかない説明である。ところでこれと似た異常な価格上昇を日本人はすでに経験していたのである。それは80年代後半に、日本全国で起きた株・土地バブルである。本稿では以前にも取り上げたが、再度おさらいをすれば、85年のプラザ合意で日本国は米国に対して、日本円が経済実態に応じて米ドルに対して上昇する円高を認めた、また合わせてそれでも増える貿易黒字解消の手段として、米国債を継続的に購入することで、米ドルの価値を維持することを約束している。これは仮に米ドルの価値が下落して、日本国民の対外資産が減価してもそれを受け入れるという政策である。結果として日米間には以前頻繁に起きていた貿易摩擦の問題も無くなり、表面上は平静を保つことができた。しかしこの動きによって、日本円は上昇することになり、これにより先行き上昇を約束されている強い円を求めて米ドル資金が、日本の株式市場に再投資されたのである。一方でほとんどの利益を輸出に頼っていた企業は財界を通じて、政府に円高抑制の政策を求めることになりこれにより、政府は無理な円売り介入を継続することになり、適切な円高水準を保つことなく、結果として相対的に安い円は米国の投資会社の格好の標的とされ、大量のドル資金が日本に流れ込んだのである。
日本に投資されたドルは、当初費消する用途が見つからず、株式市場や金融機関にとどまっていたが、それに耐え切れなくなり、土地バブルという形で突然の首都圏の土地騰貴を促すことになった、またこれが一挙に全国に広がり一時、東京都の土地の総額で米国全土が購入可能という異常な事態となったのである。その時を商社の若手社員として筆者も経験している、土地や株が毎日の様に一直線で上昇カーブを描き、皆が株購入を考えたり、早く自宅を購入しなければといった、切迫した気持ちになっていた、またすでに自宅を購入していた中堅社員などは自宅を転売して巨利を得た人もいた。また会社レベルではものづくりやサービスをしている暇があったら、手持ちの資金を株に投資する財テクをしたほうがよっぽど得と、言った拝金主義がまかり通り、価値観がおかしくなったのを覚えている。しかしバブルの結果は何も残してはくれなかった。転売による金儲けを目的とした、実態を無視した投資で得た資産はまさしく泡沫のごとく価値がきえうせ、残ったものは膨大な借金と、その借金を棒引きにする交渉だけであった。結果として身の回りでもバブル時に投資対象として購入した不動産が、その崩壊とともに三分の一以下の価値となり、それを借金で購入した人は今でもその膨大な借金の返済に追われているである。これがバブルなのである。
バブルを自身で経験したものからすれば、今回の石油価格の高騰はまさしく石油バブルであるということが分かる。世界中の有り余る金が石油に投機されているのである。石油を買う権利が証券化されそれが、マーケットにて売買される、その際中国やインドの経済成長は急激であり、したがいそれに必要な石油は比例して増加するのだから将来石油の価格が上がるので今購入すべきとの理屈から、皆が石油購入引換券の購入に殺到する。実際にそれらを支えている資金は投資ファンドが供給する、年率1%の格安な金利で得た多額の資金をこれらの石油証券の取り扱い業者に融資する。それと同時にマスコミを使ってもっともらしく将来の供給不安をあおる。その動きを見た投資家は一斉に石油証券の購入に群がるという構図である。これは投資ファンドにとっては都合のよい仕組みなのかも知れない。しかしながらこの投資の対象にされている石油は我々の生活にとって無くてはならないものなのである。石油は一般の人々の日々の生活にとって絶対に必要な産業の米である。この米が不安定になれば万人の生活が脅かされる、このようなことは少し考えれば分かることなのに、今の世界は、今世界に流通している米ドルの行き場を探すために、この重要な石油までドルの受け皿に使用せざるを得なくなったというのが実態である。
1997年の東南アジア金融危機を思い起こしてみよう、これも同じ背景がある、即ち行き場を失ったドルの使い道を確保しようとして投資ファンドは東南アジアの安定した経済成長に目をつけた、そしてその成長が永遠であるかのように広くプロモーションをして、一般庶民を信じさせ、彼らに多額な融資を行いその資金で、証券化した東南アジアの株を購入させ、多くの金を吸い上げ、東南アジア向けに投資させた。しかしそれが過剰投資となった時点で投資会社は東南アジアの会社に提供していた融資を一斉に引き上げ、これらの会社の経営が不安定になることで、投資家に大きな損害を与えた。結局今回の石油価格の異常な上昇もこれと同じことになるのではないだろうか?いつどこの時点で暴落するか、それが皆の関心事項になってきている。
今回の石油価格の高騰は、東南アジアの金融危機と比べてその規模といい、世界に与える影響といい比べ物にならないほど大きなものがある。今まで石油は米ドルのみで価格がつけられ、流通されてきた、これは米ドルの信用を裏から支える手段であった。しかしながら、米国の経済力・政治力の相対的な低下によって、石油価格が際限なく上がり続けようとしている。これは即ち石油価格の上昇は米ドルの価値低下を示し、同時に米国の国力衰退を表しているのである。
産油国は石油を売ってドルを獲得して、今の繁栄を築いてきた。しかしせっかく稼いだドルの下落圧力がどんどん強まっている。それにもかかわらず、産油国の王族は、自らの石油を売って得た、貴重な資産の価値が少なくなる、ドル下落は求めていない。しかしながらそのために自国通貨を下落しているドルの水準に合わせる必要があり、これが自国の経済のインフレに拍車を掛けつつある。これは産油国の経済にとって大変なマイナスであるし、彼らの資産を米国はじめ各国の投資ファンドが割安として虎視眈眈と狙っている。
先にプラザ合意という、円に対するドル安の容認後の政府の対応の遅れにより引き起こされた株・土地バブルとその崩壊によって、最終的には国民の資産が、バブル時の半分いや3分の一となり、同時に多くの借金のみが残った、日本のバブルの例を挙げた。まさに今産油国は、石油価格の上昇により、ドル安を容認し自国通貨を切り上げることをも求められているのである。OPECは先日の会議で石油価格高騰の動きに対して特に増産などの対策は採らないと取り決めた。それは、実際に世界では石油危機は起きていないからという賢明な判断である。しかし産油国の王族が個人で所有しているドル資産の目減りを避けるためにこのままドル安を容認せずに原油高を放置しているのであれば、バブル時の日本のように政府の後手後手の為替対応により、米国ファンドの進出を招き、国民の富が蹂躙されることが危惧される。
今後の動きを注視したい。
「日本」カテゴリの記事
- 外資襲来 M&Aの時代 加筆訂正版 Vol.183(2008.10.24)
- 財政問題は安全保障の問題である Vol.132(2007.12.20)
- 公務員改革法:実効性を疑問視する声も- 民主党に重大な責任 Vol.156(2008.06.22)
- サブプライム問題と原油・食糧高、原油本位制が始まる。 Vol.155(2008.06.20)
- AKIBAよ元気をだせ、ドイツに根ざしつつある秋葉原 Vol.154(2008.06.15)



Comments