ポールソン米財務長官、トリシェECB総裁と来週会談 Vol.158
ロイター他に興味深いニュースの発表があった。
2008年 06月 28日 13:33 JSTビジネス
[フランクフルト 27日 ロイター] ポールソン米財務長官は来週、トリシェ欧州中央銀行 (ECB)総裁と会談する。米財務省は今週、ポールソン財務長官が6月29日から7月3日まで、モスクワ、ベルリン、フランクフルト、およびロンドンを訪問することを明らかにした。 ECBの報道官は、同財務長官がフランクフルトのECB本部を1日に訪問することを確認した。 財務省によると、欧州での会談は世界経済などが中心となり、為替問題も議題となる可能性がある。 (一部割愛)
5月よりポールソン米財務長官は中国、サウジ、G8財相会議、と世界各地を回り、その上今週は欧州を訪問して、フランクフルトでトリシェ総裁と面談するとのことです。私がふと不思議に思ったのは、米国は今でも正式にEUの存在を認めておらず、米国の歴代大統領はEUのトップである委員長と公式に面談したことが無いという事実があるからです。それにも関らず今回は財務長官自らがEUの総裁を訪問して為替問題を協議するというのですから、この裏には余程大きな問題があり、米国にとって危機的な状態にあることを、察せざるを得ません。
私が今回の報に接して感じたことは、米ドルの下落圧力が予想以上に強いということがあげられる。EUの中央銀行であるECBは常に域内のインフレ防止を念頭に入れて金融政策をすすめている。それがここに来て原油や他の資源の高騰により域内の物価上昇がすすみ、ユーロのプライムレートをあげざるを得ないとの状況のなか、これ以上対ユーロでのドル安を危機に感じている米国政府は、ユーロ金利上昇後の善後策を確認しなくてはならないというのが本音であると思う。ポールソン財務長官は5月に相次いで中国及びサウジを訪問して、両国の首脳に対して、今まで同様のドルへの支持を依頼した。具体的には中国に対しては、引き続きドル建て米国債の購入依頼をして、貿易における決済通貨としてドルを主要通貨として採用すること要請したものである。またサウジに対しては、これも同様に原油の決済通貨としてドルを使用することの確認を求め、あわせてサウジ通貨であるリヤルとドルのペック制維持を要請したものと思う。 財務長官の両国訪問後の動きを見ていると、ドルの大きな下落は無いので、まずはこの訪問は効を奏し、ドルの信認は維持されたものと思われる。そしてG8にあわせて日本に対してもドルに対する従来の政策を変更することは無いという確証を得たというのが現状であろう。その上で欧州に対してはドルとユーロに現状の為替レートを維持するのに何が必要なのかを確認するのが今回の目的であると思う。
ところでドルは国際基軸通貨といわれるが、具体的にどういうものなのか、それについてここでおさらいをしておきたい。世界の各国は国として存続する限り通貨発行権という権利を本来的に有している、結果として世界各国は自国の通貨を独自に発行して、その国の経済や金融を運営している。しかしながら国と国の垣根がなくなり、それぞれの国間の貿易や人材交流が活発化すると、それぞれが別の通貨をもっているのでは代金の支払い即ち決済がやり難くなる。またお互いの国が自国の都合で交換レートを決めてもそれが実情を反映していないのであれば、ビジネスマンは利益が出る決済通貨を利用して最大限儲けようとする、そうすると結果的に2国間の為替相場は常に変動することになり、結局は貿易に対して障害になってしまう。そこでそのリスクを防ぐために両国が合意の上で特定の通貨を利用して貿易を行えば、その価値は一定であるので都合がよいのである。ところでこの決済通貨として認められ受け入れられる為にはいくつかの条件が必要である。それは;
1. 常に必要十分な量が供給されており、過不足なく需要を満たすことができること。
2. 価値が一定しており、価格を計る目安として有用であること。
この2点が重要である。結果として歴史的にもっともこの条件を満たしたのが米ドルなのである。実際にアジアの大国である、日本や中国、韓国また東南アジア諸国もすべてドルを国際決済通貨として利用しているのである。ではどうしてドルのみが第3国貿易にも利用されるほど潤沢に世界マーケットに供給されたのであろうか?これについては少し考える必要がある。それは本来国際貿易というのは物々交換をその元としており、販売と購入の総額が相当でなくてはならないという原則がある。それ故に歴史的にも売るものがないヨーロッパはアジアやイスラム諸国との貿易の際に、購入するものはたくさんあるが販売するものがほとんど無いことに頭を悩まし、その問題を解決するためにアフリカや南アメリカを植民地として獲得して、そこより得られる富を略奪して決済に当てたのである。これは具体的には奴隷やメキシコ銀などである。それでは第2次大戦後のドルについてはどうであろうか?米国は第1次、第2次の2回の世界大戦で壊滅的な影響を受けた欧州や東アジアを尻目に自国だけが無傷でいた、そしてそれらの戦禍を受けた国に対して援助を行うことになった。その際一旦ドルをそれらの国に貸付、そのドルを持って援助物資を販売することにしたのである。これをブレトンーウッズ体制という、結果として欧州の各国及び日本はドル資金を大量に借りることで、国民経済を復興させて来た。その結果西側諸国は米ドルなしでは国家が維持できない状況が続いた。その後各国は涙ぐましい努力の結果、復興を果たし借りていたドルを返済することにした。しかしその間にドルが世界的に供給されたことと東西冷戦の西側の盟主である米国は絶対的な軍事力があることによりドルはその後に引き続き世界各国の信認をえることになり、ドルを獲得することこそが金持ちになることと同等になったのである。この流れの中でもっとも発展したのが、ともに2国が第2次大戦の敗戦国である西ドイツと日本なのである。そしてこの両国の発展はそのまま米国ドルの信認の向上につながった。そしてその後のソ連の崩壊、また中国の市場経済化によりドルは、盟主を失い、混乱する旧東欧にも受け入れられ名実ともに世界の基軸通貨となったのである。しかしその発展過程において、もう一つの問題が徐々に拡大していたのである。米国産業の衰退という問題であった。米国製品は戦後の短期間は世界唯一の工場として世界中に流通受け入れられたが、その後は各国の復興とともに競争力がなくなってしまったのである。結果として米国製品から輸出できるものが徐々に減少することになったのである。そして日用品や自動車などの製品に限らず、化学製品や食糧などかつては米国製が世界一といわれていたものの優位性が徐々に低下して来たのである。例えば小麦やコーンなどの穀物でもかつての米国産はその合理的な生産方法により、世界の指標となるほど競争力があったが、今では品質、価格の両面で他国品の後塵を拝す状況である。その上これにあせった米国政府は化学農薬、肥料の大量使用や、遺伝子組み換え技術の導入、畜産では成長ホルモンの大量投与などで質よりもコストを抑えることで自国品の競争力維持を図ろうとしている。しかしながらこの動きはますます、米国品の競争力をそぐことの原因になっている。また自動車王国としてかつてはゆるぎない地位を保っていた米国の自動車産業も今では日本、欧州勢に太刀打ちできず、この分野でも米国産業の衰退は明らかである。その結果今では米国が販売できるものは、先端技術のライセンスやコンピューターソフトなど知的財産権に守られたソフト産業が主体となってしまったのである。しかもこれらのソフト産業はそもそも偽造、複製が容易であり、これを商品として販売するためには、相手国政府の協力が不可欠であるという問題点も抱えている。
このような状況下、今に至る大きな問題が発生することになった、それは米国が自国の産業の競争力の低下の問題に正面から対処することを避け、非常に安易な方法である、ドルそのものを商品として販売する方法を取ったことにある。これは例えて言えば、奈良時代の日本が中国に特産の絹織物を輸出したが、一方で日本人が必要とする商品を持たない唐は、輸出するものが無かったので時の銭(唐銭)を輸出したことに似ている。結果として日本は最初これを通貨として利用したが、これは自国で製造することは簡単であり結果として、国産通貨がこれに取って代わったのである。実際に同じ通貨でも、青銅のように金属として価値がある銭だからまだよかったが、今のドルは単なる紙切れである。これは見かたを変えれば別の物に交換できなくなれば、まったく価値を有しない米国政府が発行する約束手形に過ぎないということになるのである。 そして、米国がこれからも、世界各国からほしい物を好きなだけ購入し、その決済に約束手形を乱発しつづけるのであれば、早晩ドルに対する世界の信認は失われるであろう。
実際に、この実情にすばやく対応したのが、欧州である、欧州はドルがもはや実体価値を有しない紙切れに近い状況をいち早く察知して、自分たちの手により欧州通貨ユーロの運用を始め、自己の財産を守ったのである。一方米国向け製品や原油の最大の輸出大国である日本、中国、サウジは、それぞれが貿易の対価として得た利益をドルとして所有し、その多くを米国で運用していることもあり、引き続きドルによる決済の維持を表明している。これが世界の現状なのである。
ところで話を本題に戻そう。今回のポールソン財務長官は中国、サウジ、日本の親米、ドル支持国家に対して、引き続きドル基軸通貨体制維持への協力を求めたものと思われる、そしてそれとあわせてドル下落阻止の為に一層の管理を強化する旨を表明し、それぞれの了承を得たものと思われる。一方EUとは、これとは別にユーロに対してのドルの下落がこれ以上すすまないように対処を依頼すると思われる。欧州政府もこれに対して米国に対してEUの正式な認知を約束させ、ユーロをしっかりと認めさせることで妥協するのではないかと思う。
ところで最近では、今回の原油高、穀物高の原因として投機資金の流入を上げる向きが一般的になってきている、これはまさしく、サブプライムの崩壊により、過剰供給されたドルの受け入れ先に困った米国が、一時回避のための用意した受け入れ先に過ぎ無いのである。結果としてドルはその過剰供給分一部が吸収され、その価値の維持がぎりぎりのところで進められているのである。しかしながら原油や穀物が上がればそれを日常に必要とする庶民が影響を受けることになる。庶民の生活が脅かされる悪い政は長くは続かない筈である。
したがいこのような短期的な対症療法を継続し、根本的に米国産業の復興が図られない限り、ドルの下落は防げないのである。この点で米国が引き続き現状を容認し、産業の復興に何も対策を採らないのであれば、ドルには今後もますます下落圧力が掛かる。そしてその傾向が続くようであれば、ドル支持国家である日・中・サウジは、好むと好まざるに関らず、ドルのみに頼らない新たな通貨の仕組みづくりを進めなくてはならないのである。果たして今の日本の政権にこの時に対する、備えがあるのかが、非常に危惧される問題である。
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