不換紙幣ドルの崩壊が始まった2 Vol.165
WTOドーハ・ラウンドの交渉は自国の競争力ある食糧を現状のまま輸出できる体制の維持を望む米国と自国の食糧自給を守りたい中印が対立することで結局決着がつかなかった。これは自由貿易を国是としながらも一方で国内の農家には大量の補助金を提供してその競争力を保ち世界においての食糧の価格決定力維持を目的としている米国のやり方に対して、それは不平等として中印両国が反対したものである。このやり取りの裏には、ドルと食糧貿易をリンクさせることで、世界に通用するドルの仕組みを維持してきた米国のドルの防衛戦略が見え隠れしている。本日の朝日新聞WEB版の記事を引用する。
WTO閣僚会合決裂 インド・中国と米、対立とけず 2008年7月30日1時8分
【ジュネーブ=小山田研慈、尾形聡彦、村山祐介】世界貿易機関(WTO)多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の合意を目指して開かれていた閣僚会合は 29日、調整が不調に終わり、決裂した。複数の交渉筋が明らかにした。農産品の輸入が急増した時、途上国に限り認める「特別緊急輸入制限(セーフガード) 措置」の発動条件を巡ってインド・中国と米国が対立し、溝を埋められなかった。
交渉に影響力を持つ米国の大統領が来年1月に交代するため、交渉は長期の凍結となる可能性が高い。ドーハ・ラウンドによる世界の貿易自由化ルールの見直しは当面、期待できなくなった。 米国のシュワブ通商代表部(USTR)代表は29日夕、「米国の提案は机の上に残しておく」と記者団の前で語った。ニュージーランドの交渉団も「交渉は決裂した」と語った。日本政府の複数の関係者も決裂を認めた。農業と鉱工業品の両分野での関税削減など自由化ルールを中心に、閣僚会合は21日から続けられていた。25日にはWTOのラミー事務局長による裁 定案が示され、日米欧など主要国の間でいったん合意の機運が高まった。ところが、特別セーフガードを巡る話し合いがこじれ、28日から難航し始めた。自国の農業を守るために、機動的にセーフガードを発動したい食料輸入国のインド・中国と、厳格な発動基準を求める食料輸出国の米国が、ともに譲らなかった。新興国・途上国の影響力が大きくなっていることが浮き彫りになった。今回の交渉は、農業分野と鉱工業品分野のセットでの合意が条件になっている。各国が両分野の交渉をそれぞれの駆け引きに使ったことも、交渉を難しくした。 (一部割愛)
世界の食糧価格はシカゴの穀物市場で決まる。ここで決まった食料の価格は世界中の同種の製品にそのまま適用される。市場が米国にあるので、その価格は当然ドル建てで発表される。その結果、中国が南米のアルゼンチンより小麦を輸入する際にも相当額のドルを手当てしてそれを決済に当てる。一方アルゼンチンも小麦を輸出した代金をドルでもらうことを要求するのである。そしてアルゼンチンは手にしたドルで他に必要な商品を海外から輸入するのである。したがいこれらの貿易が行われることにより、第3国間の決済用のドルが必要となり、米国がそれを供給することになる。その結果世界中隈なく、ドルは普及したのである。しかしながら、最近になって異常な状況が起こりつつある、それは穀物相場の突然の高騰である。米国政府が原油高騰を緩和するためにトウモロコシ由来のエタノールをバイオ燃料としてガソリンの代替とすることに補助金を出す決定をしたからである。その結果、トウモロコシの価格は突然原油の価格とリンクするようになったのである。そして原油が高騰するにつれトウモロコシの価格も上昇し、多くの米国の農家は他の作物の栽培を止めてトウモロコシにシフトしたのである。結果として他の作物の価格も高騰したというのが背景である。米国はこの穀物価格の高騰を追い風と捉えて、ドーハ・ラウンドでも強硬に自由貿易を主張しているのである。今回の会議で中印が主張する緊急時のセーフガードが受け入れられなければ、食糧の自由貿易体制はそのまま継続されることを意味する。ということはサブプライム問題で多額な赤字を抱えて苦しんでいる投資会社に対して食糧相場に投資することで利益を確保する機会を与え続けることができるということである。即ち今回の米国の強硬な姿勢はG8での決定と同じく、投資銀行を救済させ、ドルの更なる下落を阻止することが最大の目的なのである。しかしながらここに至ってこれほど米国がなりふり構わぬ投資銀行救済政策にこだわるのは、どれほどドルの立場は危機に瀕しているのであろうか?
この疑問については前号で引用した田村委員の記事を参照していただきたい。即ちマスコミは、サブプライム問題は住宅ローンの問題に限定しているかのように論評しているが、実はこの問題の本質は米英が推進した金融デリバティブ事業の崩壊そのものを意味しているのである。そしてその崩壊過程にあるデリバティブ市場の規模は500兆ドルを超えており、この実体が明るみに出れば、ドル基軸体制がいつ崩壊してもおかしくないぎりぎりのところまで来ているからである。
ところで今のドルは米国政府の信用と先進国政府の支持・容認に基づいて世界の基軸通貨として流通している。しかしながら2002年の地域通貨ユーロの流通により欧州大陸国は、全面的なドル支持政策を変更した。今ドルを全面的に支援しているのは日本と中国の対米貿易黒字国と中東の産油国だけである。そしてその中で中国や産油国にはこのままドル基軸体制を容認することが果たして自国の将来にとって良いことかとの疑問がわきつつあるのである。それは金融デリバティブ事業の失敗により米国の自国の通貨の管理能力及び先進国によるドルの管理体制に疑問を持たざるを得なくなったからである。実際に先のG8の原油高騰の問題や今回の食糧貿易の問題における米国の問答無用な対応を見ていると、今ドルの置かれている立場はおおきな危機に瀕していることが明白だからである。
中国の王朝は宋代に紙幣を発明し流通させて以来、積極的に不換紙幣を利用して来た、そしてその価値の維持こそが、王朝の繁栄の根幹としてその管理には最大限の注意を払って来たのである。そのために各王朝の皇帝は自らが、華美に流されないように戒め、質素を心がけ、出費を抑え、一方では人民の生活を安定させて税収を増やすことに専念して来た。その結果短いものでも100年、また長いものでは350年近く一つの王朝を維持することが出来たのである。一方人民は一つの王朝が興隆することは、自らも幸せになることであるという実体験を積み重ね、善政を敷く皇帝を敬い国はまとまったのである。そしてその人民の支持と信用に裏付けされた紙幣は同国内のみならず、周辺国にも流通し、それが世界中の物産を中国に集中させ未曾有の繁栄がもたらされたのである。それはあたかも漢時代の絹が、ローマ帝国にまでもたらされたように、中国の紙幣が多くの周辺国に受け入れられたのである。一方で治世者が愚かであると王朝の衰退は早かった、歴代の王朝で最も国土を大きくした清国ですら、名君といわれた乾隆帝以降は、官僚に腐敗が蔓延し、内乱に明け暮れ、浪費に走り、一気に没落したのである。中国には王朝の交代が相次いだが、一方で、その治世が出来るだけ効率的に、長く続くかについて過去の経験が儒教や他の学問の形で治世学として、人民の間に伝承されていた。そして治世者はこれを学び、その通り自己管理ができた王朝は長続きし、それが出来ない王朝は簡単に滅びたのである。
翻って欧米においては、このような不換紙幣を管理することで、国力を充実させた大国の存在は皆無であった。欧州は今一般に大陸と呼ばれているが、実際には面積が狭く本来ならば欧州半島と呼称すべき大きさである。そしてそこには多くの国家が林立しており、それぞれが分裂している。そして通貨については、各国がインフレを抑えることに注力するあまり、完全な形での不換紙幣の流通には踏み切れないでいたのである。その中で中国型の不換紙幣による流通を始めたのは、71年以降の海を越えた米国が最初である。そして、2002年にユーロを流通させたEUが二番目である。しかしながら、悲しいかな、欧米には不換紙幣で国家や地域を管理した経験は十分にはないのである。したがい中国から見れば、欧米が運用する現在の通貨管理の手法は、極めて稚拙に映るのである。そして暴力を正当化し、略奪に依存して通貨を維持する、戦前の帝国主義のやり方をしたことにより、欧米は、野蛮な軍閥国家としか見えないのである。そして事実、帝国主義国家間の争いに勝利した米国は、世界制覇をもくろみドルを基軸通貨として流通させたが、自らは、必要もない軍備増強や原水爆の製造などを推し進め、多大な浪費を行い、一方では使い捨て文化を奨励し、華美に走り、ドルの信用を低下させ続けて来た事実に気がついていないのである。その結果欧州大陸各国は米国に愛想を尽かし、ユーロ流通を実施することで袂を分けたのである。そしてその重大な事実をその後も真剣に取り合わず、正面から対処しなかった結果、サブプイム問題が発生し、それにつづく、ドル危機をまねいているのである。即ち米国には不換紙幣を管理する経験に裏付けられたノウハウやその能力自体が欠如していたことを意味しているのである。
このような情勢のなか、我国はどうすればよいのであろうか?我が国民はせっせと働き、高品質な商品を多数生産しそれを、米国を始め世界各国に輸出して多大なドルを獲得した。しかし日本をあくまでも属国と見ている米国はその自由な使用を制限した。そしてそれを利率の低い米国債に投資するように命令し、それを受け入れた。その結果、日本人はいまだに金持ちではあるが豊かではないという矛盾を抱えている。そして何も策が無いままにドルは下落し、日本人の資産は目減りしている。実際に2年前には100ドルで2バレル購入できた原油がいまや1バレルも購入できない始末である。このままいけばますます、日本人は貧乏になるばかりである。
今日本がやらねばならないことは、この貴重な財産を次の世代に少しでも残るように、下落するドル以外に移すことではないだろうか?そのためには今のような米国一辺倒の政策は許されない、一方で米国は日本や中国、産油国が離反すれば、完全に米ドル体制が終了することを、理解し始めている。それだけに政治的に日本への締め付けを強めるであろう。この中で日本人は自らが先進国の一員であり、自立した国家であることをもう一度再認識して、次世代の為に頑張るべきではなかろうか?決して座して死を待つべきではないのである。一方隣国の中国は先に述べたように過去の歴史がもたらす経験と、強くなった人民元により、これから確実に世界の大国に向かうと思う。また胡錦濤国家主席は我々が見る限り華美を好まず、腐敗を許さず、粛々と仕事をするタイプに思える、それだけに我国の将来を同国と組むことで安定させることも一つの方策ではないかと思っている。その意味では、まもなく北京で開かれるオリンピックを通して同国の本当の実力を観察・評価することは重要であると思っている。
| Permalink
|
「安全保障」カテゴリの記事
- 支配者にノー オバマ氏金融危機を追い風に有利な展開 Vol.182(2008.10.16)
- 三浦事件、テロ指定解除! 国民に冷淡、これで国民国家といえるのか? Vol.180 (2008.10.13)
- デリバティブ、拝金主義のまやかしに騙されるな。 Vol.179(2008.10.09)
- 何が詐欺で、どこが博打なのか?デリバティブ Vol.174(2008.09.17)
- お金と宗教の物語 Vol.176(2008.09.19)



Comments
こんにちは



米国一辺倒になるのが嫌で自立した国家になるのなら
拉致問題で当事国でもない関係ないアメリカに助けてくれなんてお願い行ったりテロ指定解除で裏切られたとか言わない国にならないとね。
自分の国のことは自分でやる国になりましょう
日米安保も廃棄しないとね。
Posted by: 柴ワンコ | July 30, 2008 at 12:51