北京オリンピック 儒教による国家統一 Vol.166
2008年8月8日午後8時、中国人にとってもっとも幸運をもたらすと言われている、8が並ぶ時に、北京オリンピック華々しく開幕された。豪華絢爛なるプログラムが相次ぎ、中国の世界におけるプレゼンスを改めて認識した視聴者も多いものと思う。一方開会式のモチーフとして強調されていたものに儒教思想の紹介があった。中国を共産主義国家、即ちマルクスレーニン主義国家として認識していたものには社会主義思想を排除した開会式に、少々の意外感を感じるとともに、これは隣の儒教国家韓国のことではないかと見粉もうところもあったと思う。それだけ中国政府は自らの考え、価値観において儒教思想がきわめて重要であるかを世界の60億の人々と13億の同国人民に明確に示したものであると思う。関係の時事ドットコムの記事を引用したい。
孔子の教え、コンセプトに=調和社会に合致-開会式〔五輪・開会式〕
【北京8日時事】「四海みな兄弟」「和をもって尊しとなす」。8日夜の北京五輪開会式で繰り広げられたアトラクションでは、孔子の教えがコンセプトの一つに活用された。歓迎儀式のテーマは「友遠方より来る、また楽しからずや」だった。
孔子を祖とする儒教は文革時代(1966~76年)に徹底否定されたが、その後復活した。孔子好きだった江沢民前国家主席に続き、「調和社会」構築を掲げる胡錦濤国家主席も儒教を高く評価。国民の間でも「論語ブーム」が起きている。
中国政府は中国語を教える「孔子学院」を世界で展開中。海外でよく知られる孔子の活用で中国の「平和愛好」を印象づけたい狙いがあるようだ。 (了)
(2008/08/08 21:37)
ところで何故中国政府はオリンピックの開会式において儒教を国是とすることを敢えてアピールしたのであろうか?1949年に新中国が成立後、マルクスレーニン主義を国是としてそれを毛沢東主義に昇華させて13億人の大国をまとめて来た。しかしながら、その歴史は苦難の連続であった。建国に至るまでの国民党との内戦、また抗日戦争、そして建国後は米国との朝鮮戦争への参加、同じ社会主義国家ソ連との確執、そして文化大革命など数々の困難を乗り越えて来た。当初共産党は中国5000年とも言われる歴史のすべてを否定することで、共産主義を純粋思想として浄化して国是としていた。しかしながらソ連の変化や冷戦の拡大によりそれをそのまま維持することは難しくなり、共産主義に替わる思想として、独自の毛沢東思想を広めていった。それは毛主席を神として絶対化し、一方で資本主義(拝金主義)を徹底的に排除することで、汚職の蔓延を防ぎ、国体の維持を狙ったものであった。しかしながら結果は惨憺たる状況を招いた。特に政治・思想を第一とし産業育成を軽視したために国民経済が破綻し、中国人民は困窮に苦しむことになったからである。米国、日本と相次いで国交を回復し、それらの資本主義国の発展振りを自らの目の当たりにした中国のトップは経済発展から取り残された自国の姿に焦燥感を感じていた。とりわけ敗戦の焼け野原から不死鳥のように復活した隣の経済大国日本の姿に驚愕するとともに大いなる興味を示し、その成功の秘訣を徹底的に研究したのである。その結果中国が手にした結論は、日本と米国の経済的な補完関係にその鍵があるという事実であった。即ち米日の関係は一般に理解されているような平等互恵の独立した関係ではなく、むしろ日本はドル経済の下に、米国に従属し完全に制御された相互の補完関係にあることを認識し、そしてそれが奇跡的な経済成長をもたらしたのであると理解したのである。それは米国がかつて持っていた製造業の拠点としての機能を徐々に日本及び他のアジア諸国に譲り、代わりに自らは世界覇権国として、世界経済において自国通貨ドルの基軸通貨化をすすめ、合わせてその覇権を維持するために、絶対的な軍事力を確保することにその中心をおいていたことを見抜いたのである。その後毛主席が79年に死去し、そのあとを次いだ鄧小平が政権を握ると、中国は従来の政策を大きく転換させて、市場経済政策を強力に推し進めたそして、一刻も早く日本に追いつくことを目標とした中国は、日本が米国とともに歩んだ道をそのまま踏襲した外資導入・開放改革政策へと突き進んだのである。その結果官僚の腐敗などの問題も数多く抱えたが、中国は現在に至る高度成長を達成し、オリンピックを開催することで、世界中にその存在を示すことが出来たのである。ところで何故中国はこの時期に世界の人々に中国が儒教国家であることを強烈にアピールする必要があったのであろうか?そこには、紀元前より脈々と中国に伝わった伝統と経験が背景にあると考えている。
中国においての最初の統一国家は紀元前3世紀に成立した秦である。同国は長く続いた春秋戦国時代を終わらせ諸国家を統一した初めての統一王朝である。そしてその際に採用した国是が法学であった。即ち国は法により統治されるという法家の思想を政治に取り入れたのである。しかしながら厳密な法令の施行には無理があった、それは時として法に厳格なあまり、人の自然な姿を認めないことにもつながり結局秦は短命に終わってしまった。この時中国人は法令による支配には限界があることを悟ったのである。その後起こった漢は秦の失敗を冷静に分析し、法はあくまでも政治の補助的手段に過ぎないと考え、国の統治は孔子が唱えた、儒教の教えに基づき、統治者は徳もって政を司り、周りの行政官はこの統治者対して仁を持って協力する政治を第一としたのである。結果的に漢はこれにより大いに栄え、その後この儒教思想は中国の各王朝の基本的な政治思想となったのである。
先に述べたように現在の中国は経済第一主義の国家である即ち経済を発展させて、人民を豊かにすることが政治のもっとも重要な課題であると考えている国家である。しかしながらこれは別の一面として金さえ儲かれば何をしても良いといった拝金主義を容認してしまう恐れがある。そこでそれを阻止するための何らかの精神的支柱が必要なのである。それも世界を牛耳っている欧米諸国が国是としている自由民主主義には矛盾を起さない形での思想が必要なのである。中国が西側とのかかわりが少なく、東側においても特別な地歩を固めていた毛沢東時代は毛思想を掲げればそれで十分に間に合ったが、今の複雑な国際情勢では、そうは行かない、ましてや毛主席が死去したあとのリーダーは毛主席ほどのカリスマ性は当然落ち合わせていない。その結果復活したのが中国の古来の思想であり、かつ一貫して中国の王朝を支えて来た儒教への回帰なのである。
これは一見自然な姿に見えるが、実は極めて巧妙な政策である。即ち欧米諸国は共産党の一党独裁に対しては過激かつ明確に反論を加え攻撃をするが、宗教や思想的な動きについては攻撃する手段をもっていない、これは仮に欧米諸国が他宗教を攻撃すれば自らが決めている宗教の自由は侵され、結果として自分の宗教が攻撃されるという致命的な弱点を持っているからである。その上宗教とは若干違う東洋思想に対してはその評価すら出来ないからである。一方内政面で見ても中国人にとって仁義礼智といった儒教思想はすべての人民が根底に持っているものであり、且つ欧米思想である、民主や自由とも矛盾を生じないので非常に分かりやすく受け入れやすいという特徴がある。
我々日本人にはなんとなく、中国がオリンピックの開会式を利用して自国が大国であることを示しているということは分かるが、具体的に何故儒教を前面に出し、‘’和‘’の概念をあそこまで強調したのかについて、理解している人は多くないと思う。それだけに中国はこの開会式のプログラムを通じて、欧米が中国に対して持っている一党独裁国家という根源的な批判に対して明確な回答を示したものであると感じている。中国は今回のオリンピックの成功を契機として、今までのように経済発展ばかりをめざすのではなく、欧米の自由民主思想に対して儒教思想を基盤とした新たなる、考え方を訴え、中国共産党の正当性を広めていくものと思われる。そして国内にては、為政者は徳を持つべきであるという儒教の考えに基づき、今まで以上に自己を律し、拝金主義に根ざす汚職を排除する形での中国型民主主義を推進していくのではなかろうか?実際このように考えると80余の国家リーダーに対しての、胡錦濤主席の威厳が有り堂々とはしているが、決して傲慢ではない立ち居振る舞いの背景がよく分かるのである。
今般中国がこの崇高な考えの高らかに訴えた開会式に米国の大統領として初めてブッシュ大統領が来賓として参加した。そして彼の最大の目的が米中の良好な関係維持であり、それも目的は唯一つドル下落を共同で防ぐことであったことを考えると、もはや米国は国家統治の思想についても中国の考えを受け入れざるを得ない状況になっていることがよく分かる。それだけに今こそ我々日本人は中国との1000年以上の付き合いの中で、これまで以上に米中の動きに対して敏感になるべきであり、自国の将来像を明確化する必要があると思う。
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