グルジア問題にロシアと米欧の縄張り争いの影 Vol.167
中国にとって晴れの舞台である北京オリンピックの開会式を、まるでぶち壊すかのような事件が、黒海の国グルジアで起こった。同国の南オセチア自治州にロシア軍が侵攻し、交戦状態になり、それがグリジア全土に広がっているとの事である。これらの一連のロシア軍の行動に対してグルジアのサーカシビリ大統領は英語を用いて、米欧に対して支援を訴えていた、これに対してEUの議長国であるフランスのサルコジ大統領は早速仲裁にはいり、またドイツのメルケル首相もロシアを訪問しメドベージェフ大統領と協議を重ねている。多くのメディアはロシアが例によって自国の安全保障を最優先して武力行使に出たとの一方的な論調であるが、しかしながら冷静に内容を見てみるとそう単純ではなさそうである。日経WEBの記事を引用する。
(8/15)「ロシアの狙い、政権転覆」 グルジア大統領会見
【トビリシ=古川英治】グルジアのサーカシビリ大統領は13日夜、日本経済新聞など一部西側メディアと会見した。ロシア軍が停戦合意後もグルジアに通じる陸・海・空の交通網を押さえ「経済を破綻させようとしている」と危機感を示した。「ロシアの狙いは政権を転覆させることにある」と強調し、米欧に軍事的 な支援も含めた介入を訴えた。7日にロシア側との武力衝突が起きた経緯について大統領は、同日午後11時にロシアの大規模な戦車部隊が国境を越えて自治州に進軍したため「グルジア人 が住む村を守るために軍を派遣した」と説明した。この点についてロシア側はグルジア軍の攻撃を受けて越境したとしており、食い違っている。大統領は「グルジア人を守る義務がある」と軍事行動の正当性を主張する一方で「ロシア軍の動きは、グルジアを侵略者に見せかけるための策略だった。ロシア側がここまで周到な準備をしていたとは想像できなかった」と述べ、誤算があったことを認めた。
グルジアといえば思い出すのは、ソ連の独裁者スターリンがグルジア人であるということである。また大相撲の黒海もその名が示す通り、グルジア出身であり、日本から見るとイメージははっきりとは湧かないが、一度は聞いたことがあるといった程度ではなかろうか?しかしながらロシアから見ると、グルジアにはカスピ海油田のパイプラインが通っており、また同国は南のイスラム圏との架け橋の機能も持っている。また同国で産出するワインはロシア人の食にとっては無くてはならないものであり、その意味では同国の政治的な帰趨はロシアの安全保障上においても最優先課題である。しかしながら現在に至るまで同国は91年のソ連崩壊後、一貫して欧米よりの政策を採り続けており、ロシアと対峙する方向に進んでいるのである。今回もロシアとの軍事紛争が生じた後すぐに同国のサーカシビリ大統領は、欧米各国に支援を求め、一方で仏、独、米は抱えているすべての案件に優先して同国に対して支援を表明している。一方今回のオリンピックの女子柔道では両国の選手が大戦後互いにたたえあう姿が放映されている。これらの情報に接して思うことは、同国の国民やロシアの国民は自らこの不幸な軍事的抗争を支持しているかと言う疑問である。即ち表向きにはグルジアの政権が民主的な手法で選ばれた政権とされているが、実態は本当に国民が自らの選んだ政権なのかということである。私が思うには本来、平和につつがなく、日常を暮らしたいと欲している同国の国民が米欧、ロシアという2大勢力の争いに巻き込まれて、米欧の傀儡政権に従わざるを得ず、希望しない抗争に巻き込まれているのではないかということである。似たような事例にセビリアのコソボがある、これも米欧とロシア間の政治的な縄張り争いの犠牲となっているのである。また軍事的に同様に中間地帯にあるポーランドやチェコなどが置かれている立場も同じである。
歴史的に見て、米英を始めとする欧米は世界を軍事力で制覇することを国是としているようである。一方現代では、それに対抗する勢力としてロシアや中国、インド、南米諸国などが存在している。我々は教科書で現代は、世界各国が平等な立場で国際連合を組織して、世界を平和に導いているとの教育を受けて来たが、現実はそうではないことが次第に分かって来た。むしろ欧米勢力とそれに対抗する勢力はそれぞれに自分の覇権を出来るだけ大きくしたいとそれぞれに自らの都合で周辺国を侵略しあるいは、傀儡化して自らに都合のよい縄張りを確保しようとしているに過ぎないと感じている。しかしながら前世紀末に米英が仕掛けたドルによる世界支配は欧州大陸国に置けるユーロの誕生とともにその立場が揺らぎ、一方ロシアが世界一のLNGの供給国となり、またサウジと並ぶ産油国となったことにより従来米英の配下にあったOPEC体制も有名無実化している。そして軍事力でもインドやパキスタン、北朝鮮までもが核兵器を所有する事態となり、従来の核保有国の優位は無くなっている。その結果従来は絶対的であった米英(アングロサクソン)の優位は揺らぎ、各国がそれぞれに自国の縄張りを引きなおす作業が始まっているように見える。今回のグルジアでも、コソボでもそうだが、本来これらの国が旧ソ連や旧ユーゴスラビアといった大国の一部として存在していた時にはこのような問題は起きずに安定していたのである。しかしながらそれでは自らの縄張りを拡大するに不向きと考えた、米英が、欧州国家をそそのかし、民族主義を建前にそれらを独立させ、種々便宜を与えることで、自らの勢力内に取り込もうとして来たのである。結果としてそこに居住する個々の住民の立場は軽視され、一方で民族自立という美名の下に民族主義のみが一人歩きし、伝統的な安定した生活が脅かされることになったのである。それは我々が生きている21世紀の現代は、平和な時代ではなく、弱肉強食がまかり通る戦乱の時代であることを意味している。
昨日8月15日は、終戦記念日であった。衛星放送などで先の戦争の特集が複数組まれているが、NHKで放映された日中戦争についての番組は示唆的であった。番組は日本軍が中国軍の実力を過小評価して戦争に走り、結局対米国も含めた全面戦争に突入した経緯を往年の当事者がインタビューで証言する内容であったが、その中で感じたことは、当時の中国国民党政権は米国から多額の支援を受けている、実質的な親米傀儡政権であったことである。東アジアにおいての覇権を取ることを目標としていた米国は、日本の台頭を良しとはしていなかったが、一方で軍事力の拡大を容認し、日本が独自に原油資源の獲得に走らないように懐柔するために、日本の望む通りに、原油を供給し、日本の生殺与奪権を確保していた。その結果日中両国は一方は米国の原油で、またもう一方は米国の資金に頼り戦争を始めたのである。またこれは中国人民から見ると親米政権である国民政府が米国に代わって、日本との泥沼の代理戦争に突入していったということである。一方で驚愕すべき事実としては、日本が日独伊三国防共協定を結び、同盟国として信頼していた筈であるドイツは38年までは同協定の主旨に反して、軍事顧問団を国民党に派遣して、大量の武器を供与していた事実があった。これがしめすことは、ドイツもまた日本と中国の同士討ちを画策し、漁夫の利を期待していたのである。このことは欧米列強はこの時点でも東アジアを植民地化の対象としてしか見ていないことを意味している。結果的に日中双方は自らの意志とは別に欧米の意図の通り、互いに交戦させられ多くの人命の犠牲を払い、経済的にも多大な損失を蒙ったのである。そして日本が長引く戦争で、疲弊をし始めた頃を見計らって米国は、日本の軍事力維持の生命線である原油の禁輸を断行し、その結果日本はしかたなく真珠湾攻撃を行い、南方への進軍を行ない、南方の原油確保に活路を求めたのである。しかしこの太平洋戦争は日米の物量の圧倒的な差により一気に日本を滅亡に向かわせたのである。
ところでこの事実は我々が子供の頃より教育を受け、半ば常識としていた、日本政府の無能と、軍部による侵略目的の暴走が先の戦争の原因であるという考え方とはまったく異なっている。むしろ日本と中国は米国覇権の格好のターゲットとされ、ほかに選択肢は無い形で、無用な同士討ちをさせられ互いに大いに、国力を消耗させられたと考えるべきではないだろうか?日本は太平洋戦争でその米国に完全に敗北することなった結果、米国の意図する通りに、すべての仕組みを親米に作り変えられ、政治経済的に傀儡国家となった。そして戦後の日本人は古来からの伝統に反する、歪んだ自由民主思想と親米教育を押し付けられたのである。一方で隣の中国では親米国民党政権が中国民衆から立ち上がった共産党政権に打ち倒され台湾に逃走し、その拠点を移した。その後中国は共産党政権下で米ソどちらにも組みしない形での自主独立路線を推し進め、結果として共通の敵ソ連との対抗上、米国の意向をうけて、同国と対等の形での国交を結び、国際連合でも安保理の常任理事国としてひとり立ちを達成したのである。そしてその後の開放改革政策の成功により、経済面では米国の友好国として、また政治的、経済的な自主独立国として今回の北京オリンピックを開催することになったのである。その意味では中国にとって今回のオリンピックの開催は中国が戦後数々の困難を克服して国際社会に認められたお披露目という晴れの舞台なのである。
一方日本は、戦後米国のドル経済圏に組み込まれ、米国が必要とするものを代わりに作り供給し続け、復興に必要なドルを獲得して、経済の復興に邁進し大きな成果を挙げた、しかし一方では政治的にはいまだに、独立は獲得していない状態が続いている。しかしその中で、戦後一度だけ自主独立を取り戻すチャンスがあった。それは上記の対ソ政策の行き詰まりを解決しようとし米国政府が中国との関係修復の動きに出たことを、絶好の機会として捉えた、時の田中首相が中国との国交を米国に先駆けて正常化した時であった。この決定は当時の日本を台湾と並ぶ傀儡政権として米国を共産主義から守る防波堤として認識していた米国政府を激怒させた、しかしながら日本は敢然と中国と正式に国交を正常化に突き進んだのである。これにより国際社会は日本が台湾とは違う独立国家であることを認識したのである。そしてこの政策決定は日中両国の政治・経済関係の大いなる発展をもたらしたのである。しかし米国はその後日本が自主的に中国と外交を進めることを嫌悪し、それを許さず、今まで以上に自らの陣営の一員として締め付けるようになったのである。そのためには田中首相は不要と判断し、米国製航空機がらみの汚職スキャンダルを意図的に露見させ、辞任に追い込んだのである。この結果その後の政権は米国にとって極めて都合のよい迎合政権が成立したのである。そしてそれは残念ながら現在に至っても続いているのである。
今中国とロシアはそれぞれに貿易立国、資源立国として強大化している。またインドもインド人の優秀な計数能力と英語力をして、世界経済にとって、無くてはならない国になっている。そうした世界の大きな変化のなか、日本の立場も今まで同様米国一辺倒では成り立たなくなるのである。こうした変化のなか、日本人は今一度自らがおかれた立場を考え直し、国際社会における新たなる位置づけを目指す必要があると思う。日本は戦後の米国との一体化政策の中で、米国の内部事情もよく理解しており、一方で中国とはすでにきっても切れない親密な経済関係を構築している。また幸いにもロシアやインドとも軍事や経済において直接的な利害関係はもっていない、今後この有利な点を活かして世界の平和や経済発展に貢献できることが可能ではないかと期待している。そろそろ政治の米国一辺倒は終了すべきときに来ているのではないだろうか。そして今や日本や中国のおかれている立場は、グルジアやコソボのように単に縄張り争いの緩衝地帯ではなく、それぞれが世界平和は経済において、非常に重要な役割を持たされていることを再認識すべきである。その意味では今後の日本の政治的自立と、日中関係の健全な発展は現実を見据えた、日米関係と同様に最重要であるし、それがかなえばグルジアやコソボなどの国家の本当の自主独立に対しても大いに勇気を与えることが出来ると期待している。
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