何が詐欺で、どこが博打なのか?デリバティブ Vol.174
リーマンブラザースが倒産した、連邦中央銀行(FRB)の株主としても名を連ねる、大企業であり、老舗の名門がその歴史に終止符を打ったのである。結果としてこの会社も、サブプライムローンの焦げ付き問題を乗り切れなかったのである。またこれは所謂金融デリバティブの採用による、経済発展を標榜する、新資本主義の終焉を意味していると理解している。それではこのデリバティブの何が詐欺で、どこが博打なのか、その結果どうして破綻したのかについて、検討を加えてみたい。まずはWikiの説明を引用したい。
デリバティブとは伝統的な金融取引(借入、預金、債券売買、外国為替、株式売買等)や実物商品・債権取引の相場変動によるリスクを回避するために開発された金融商品の総称である。英語のDerivativesに忠実に、「デリバティブズ」と呼ばれることも多い。日本語では派生商品(はせいしょうひん)という。デリバティブ(derivative)は、「誘導的な」「派生した」という意味である。
ところで私が従事していた、化学業界では以前よりこのデリバティブという言葉を常用していた、それは化学業界では、ある物質そのもの、それを化学反応させた作られた次の物質がいずれも商品として供給されているが、もともとの商品と加工した商品を区別するために、オリジナル(出発製品)とデリバティブ(誘導・派生品)という形で使っていたのでこの単語にはなじみはあった。我々は投資というと、まず真っ先に思い浮かぶのは株式投資である。これは手元の余剰資金を将来性がありそうな企業の株式を購入することで、その価値の向上と配当金を求めるやり方である。実際に今の世界は通貨の供給量が年々増大することにより3%程度のインフレは恒常的に起きているので、株式価格上昇額と配当金の合計が出資金額の3%以上でないと儲かっていないと考えられている。これが株式投資である。しかしながら株式投資は値上がりも期待できると同時に値下がりのリスクもあり、余程のことが無い限り安定した投資であるとはいえないのである。一方もう少し安全な投資として国債などの債券があるが、これは元本割れのリスクがないものの、配当金は極めて低額に抑えられており、インフレ率を換算するとたんす預金より若干よい程度で、確実に価値が目減りする投資でもある。今では、世界の或いは特定の国の優良株式や債券をプロが個別に選択し組み合わせ、元本保証や高配当や安定配当を謳った、各種投資ファンドが世界中の投資銀行(証券会社)から販売されている。
ところで戦後米国の経済力が突出している中でその超大国としての腕力を背景に、ドルの基軸通貨体制が確立すると米国は自ら主導して世界各国の株式債券市場のドルへの開放を求めた、また一方で資金不足に直面していた新興国は、事業を効率よく推進することを望んでこの動きを歓迎した、そして各国は外資による自国の株式債券市場への環境を整えた。そして世界中の投資家が自国通貨を一旦ドルに変換して、それを世界の株式債券市場に投資したのである。この一連の動きを我々は新資本主義、グローバル経済と呼んで来た。しかしながら過剰な投資資金の流入は、数少ない優良企業に集中し、実力を超えて株価を押しあげることになり、その結果、投資家はいつ株価が暴落するかといった不安を恒常的に持つようになった。その結果、新たに投資をする対象の開発と確保が世界的に求められたのである。その状況中で発明された手法がここに言う、株式・債券から新たに派生した、デリバティブなのである。定義は上記の通りであるが、これは一言でいうと、株式や債券が正(実体)資産に対する、投資であるのに対して、デリバティブは負資産(負債)に対する投資と考えると分りやすい、即ち実体資産に付随している、影のように見えるが掴むことができない負債をあたかも実体資産の商品であるかのように売り出したのである、それ故資産としての実体がない、デリバティブはその大元からして詐欺性を有しているのである。そこでデリバティブの一つであり、サブプライム問題の主犯ともいえる不動産ローン債権証券とも言われている、証券について説明をしてみたい。
これは、過去の常識では、商品化することなど、まったく考えられていなかった、住宅ローンという債権を証券化して商品として販売した点で画期的なものである。具体的にはローン(債権)というものには常に貸し倒れというリスクが伴う、本来金融機関は貸し出したローンについては、全精力をつぎ込んで貸し倒れを防止しそのために、担保を取得したり、貸出先の経営状態をしっかりと把握して未然に防ぐべき行動をとることが求められている。この行動は他の顧客への影響を考えれば当然である。しかしながらこのローンの証券化はこれとはまったく別の視点と前提で開発された仕組みである。それはある住宅ローンに対して、過去から現在までの貸し倒れ発生の統計をとり、そこから貸し倒れ率の平均値を導き、これを指標とするものである、仮に100万円の住宅ローンがあると仮定すると、一割の確率で貸し倒れになるという結果がでれば、これを元に100万円全額の回収を期待せずに、住宅ローンの債権総額を90万円に設定するのである。そしてこの債権を90万円の価値の証券として売り出し、そしてこの証券は順調に行けば100万円の現金に交換できるとして、差額の10万円限度として配当を出す証券として、販売するのである。もちろんこの場合、100万円の完済が行われれば、販売者と購入者の間で10万円を応分に分配するのである。これが原理である。しかしながらこれだけではサブプライムローンが勃発し問題化した背景を説明することはできない、それではどこに問題があるのであろうかもう少し詳しく見てみたい。
この問題がこれだけ重大化した背景には、この仕組みを活性化するために仕組まれた住宅バブルがある。これは投資銀行が、この新しい証券ビジネスの規模を拡大し、活性化させるために、意図的に本来ならば、ローンの返済が不可能な、低所得者層に狙いを絞り、当初の数年間は極端に安い金利を適用しその後、徐々に上げていく、ステップアップ方式のローンを強力に推進させた点にある、そしてその潜在的問題点を意図的に隠蔽しどんどん貸付けを進め、市場を拡大し、担保として手にしている住宅の資産価値を上げることで、資産価値を維持しかつ付加価値を得ることを画策したのである。これは例えば、返済金利が上がる3年目になっても相応に収入が増えずにローンの返済が出来ない人に対して、支払いが途絶えたことで、立ち退きを迫り受け入れさせ、一旦清算し、一方でこの住宅を、新たに住宅を購入したいと希望する人にローンを提供することで、購買意欲を刺激させることで、住宅価格は上昇し、不動産として価値が増大するバブルをまねくことになった。他方で、返済金が上昇しても何とか返済を継続する所有者には、柔軟にその返済額の増大分に対して、住宅価格の上昇した分を見込み担保額を再評価して、住宅の所有者であるローンの債務者に対して、住宅ローン会社あるいはそれに準じる金融機関が追加でローンの差額を貸し付けることでも、債権総額の拡大を意図したのである。その結果住宅の所有者は新たなるローンを借りることで返済に一息つくことができるが、しかしながら実際には次の金利改正時には同じことを繰り返すことになる、結局これが続き返済金の総額がますます増えることになりついには住宅の所有者はこれに耐えられなくなり、住宅を手放すのである。しかし住宅バブルが起こっている状況の下では、手放した住宅の不動産価値は引き続き上昇しており、これは容易に転売が可能であり、また新たなサブプライムのローンが組まれるのである。結果として、当初100万円の額面で売り出した、住宅を担保とした証券の価値は住宅価格の上昇とともに150万円、200万円と増え続け、このローンの発案者に多額の収益をもたらしたのである。このビジネスは最初の投資家からすると、90万円を支払うだけで、その元本は保証され、100万円を得られる年率10%の高利回りを得ることになり、結果としてこの住宅ローン証券を組み入れた投資ファンドは、優良投資商品として、面白いように売れたのである。しかしここには当然のことながら落とし穴がある、即ち住宅の需要には当然上限がある、一方で住宅はどんどん作られる、そうなるといつか必ず、住宅の供給が需要を上回ることになるのである。その結果住宅の価格がこれ以上値上がりはしないピークに到達することになる、そうなると追加のサブプライムローンで返済を何とか継続して来た、既存の住宅の所有者も返済ができなくなり、あきらめ立ち退くことになる、立ち退いたとしてもあちらこちらに空き家があるので、住宅の担保価値が下落する。それにあわせて別のローンの返済は打ち切られ、それがより多くの空き家を生むことになる。その結果住宅の転売数は減少しますます、返済不能が発生するのである。即ちいつか将来に住宅の供給が需要を上回ることを知っていながら、住宅価格の上昇が永遠に続くかのように見せかけ、ローンを組ませ、一方で投資家は、住宅価格が上昇する限りにおいては、時価会計により帳簿上は儲かるのでこれを放置する、しかし一旦住宅価格が下落すると、元本を確保するためにこの証券を売りに出す、結局もともとすぐに現金化できないローン債権では必要な現金は確保できず、発行元の投資銀行は株式や他の債券などを売って現金を確保しなければ買戻しに応じることは出来ないのである。これこそがまさしく問題の本質なのである。すなわちこのローン債権証券は住宅価格が下がれば容易に元本を割る危険性を常にもっているが、販売時にその事実を隠蔽して販売を推進、継続したことがモラルに反した偽善行為なのである。結果としてどうなったのであろうか、投資家はサブプライム問題が勃発し拡大することで、住宅の価格が下落して、ローンの返済率が下がり、配当が大幅に下がることを予想していっせいにローン債権証券を売却を行った、その結果同ローン債権の発行元は時価での買取に応じなくてはならず、赤字がどんどん増加したそして、自らが資産として手にしたほかの株式や債券を販売してその差額を充当しなくてはならなくなったのである。そしてこれが世界的な株安・債権安を生んでいるのである。したがいこの住宅価格下落による、返済率の低下こそが現実には不可避なものであり、これを宣伝して当該証券の販売を推進した行為は詐欺なのである。結局元本の支払いをするために財源がなくなり、これが出来なくなれば、その投資銀行は倒産するしか方法はなくなる。そしてその倒産によりその顧客が連鎖的に苦境に陥るのである。そしてこのようないざという場合の倒産を前提とした、詐欺を信じて投資する投資家存在も問題の拡大を助長し、その解決を困難にしているのである。
ところで何を持って博打というかであるが、これは上記の100万円額面の住宅ローン証券を90万円として販売するか、80万円として販売するかで、顧客の購買意欲は当然変わる、実際に高度な配当を謳い文句に乗り、80万円を支払って、100万円の証券を購入できれば、これは顧客にとって極めて有利な証券となる、一方で元本を保証するかしないかも大きな博打である。住宅バブルが続くことに全財産を賭けて、元本を保証してその証券をすればその証券の販売は大いに進み巨額の利益を手にすることができる。しかし住宅バブルが終了すればこの博打は負けである。このように先行きを楽観視した投資銀行はこの絶対的優遇条件を出すことで、多くの顧客を持つことができ、大もうけをした。しかし住宅バブルという胴元が崩壊すればなにも残らないのである、これが現実なのである。しかしながら当初の小さな博打の大当たりが、最終的に未曾有の大問題の背景となったのは皮肉な結果である。
米英の投資銀行は、世界中から有り余ったドルをこのようにドル建ての証券を発行することで、かき集め、そのドル資金を不動産のほかにも為替や商品先物、燃油などあらゆる場面でデリバティブを開発し、ヘッジファンドといわれる子会社群(Junior Sponsors)に、運用させてきた。そしてそのファンドの担当者には億単位の年収を提示して、詐欺と分っていても、平気で人を騙し、うそをつき徹底的に運用総額と獲得利益という指標のみのためにひたすら余剰資金の費消先を開発し、投資家という顧客を増やし、運用させてきた。そして甚だしきは、この目標として原油や食糧といった、我々の生活の維持に直結する商品という、生命線にまで投資対象として侵攻しているのである。実際に持ち家がなくとも死ぬ人はいないが、食料や原油が確保できなければ餓死者や凍死者が出ることを忘れてはならない。
このように金のためならば、善良な市民を詐欺で騙し、そして自ら博打を打ち、失敗したら、倒産という伝家の宝刀を取り出し、帳消しに自分だけが潤うというのが米英が主導した新資本主義とグローバル経済の実体であり、この仕組みの終焉をを今回のリーマンブラザースの破綻が実例として示していることを我々は認識しなくてはならないのである。
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